変形性膝関節症の自主トレの選び方|運動の使い分けと説明例
公開 2026-08-18 / 更新 2026-09-17|作業療法士・トロル
この記事でわかること
- 症状・動作・環境から候補を選ぶ
- 目的と実施条件をプリントへ記載する
- 運動後の反応と生活動作を振り返る
変形性膝関節症の自主トレは、診断名だけで一式を決めるものではありません。困っている生活動作と身体の状態を確認し、目的に合う運動を選びます。自宅で安全に行える条件と、実施後の反応も大切な判断材料です。
この記事では、専門職が自主トレ資料を作る際の手順を整理しました。運動候補の比較表と、患者さんへ伝える説明文の例を掲載しています。
専門職の方へ
1. 自主トレを選ぶ前に、症状・動作・環境を確認する
「立ち上がりがつらい」という訴えでも、確認することは筋力だけではありません。痛みの出る場面や椅子の高さ、支えの有無でも、実際の困り方は変わります。まずは、次の項目を聞き取りと動作の観察で整理しましょう。
| 確認すること | 聞き取り・観察の例 | 自主トレへの反映例 |
|---|---|---|
| 痛みや腫れの変化 | いつから、何をすると、普段と比べてどう変わったか | 運動を試す前に、受診や再評価が必要かを判断 |
| 目指す生活動作 | 食卓から立つ、買い物に行く、玄関の段差を下りる | 本人と共有する目標を具体化 |
| 筋力と膝の動き | 力の入り方、曲げ伸ばしの範囲、動作中の痛み | 筋力や動く範囲に働きかける運動の必要性を検討 |
| 自宅の実施条件 | 安定した椅子、支え、運動する場所、床への移動 | 姿勢と実施場所、見守りの必要性を調整 |
| 続けるうえでの負担 | 時間、疲れ、不安、ほかの病気や治療 | 種目数・量・相談方法を本人と決める |
この表は、聞き取りを整理するための提案例です。回答だけから痛みの原因や適した運動が決まるものではありません。
強い症状があるときは、運動を追加する前に相談する
足に体重をかけられない、膝を動かせない、強く腫れている場合は、速やかな医療相談が必要です。膝の赤みや熱感に発熱が伴う場合も、運動を試さず医療機関へ連絡してください。[3]
強い痛みがあるから、膝を動かさない筋力運動なら行える、と一律には判断できません。いつもの症状なのか、新たな問題が起きているのかを先に確認します。
2. 運動の目的を整理し、候補を選ぶ
日本整形外科学会は、膝を支える筋肉の訓練と、膝の動きを保つ運動を紹介しています。[1]NICEの指針でも、本人に合わせた筋力トレーニングや有酸素運動が勧められています。[2]有酸素運動は、歩行など、ある程度続けて全身を動かす運動のことです。
以下は、これらの方針を資料づくりに結びつけるための整理です。ガイドラインが全員に同じ種目や順序を指定している、という意味ではありません。
| 考える目的 | 運動候補 | 実施前・実施中に確認すること |
|---|---|---|
| 太もも前の筋肉に力を入れる | タオルを使ったクアドセット | 力の入れ方、痛み、呼吸を止めていないか |
| 膝を伸ばす筋肉を使う | 椅子に座って膝を伸ばす運動 | 椅子の安定性、動かせる範囲、反動や負荷 |
| 膝の曲げ伸ばしを練習する | ヒールスライド | 滑らせやすさ、痛み、無理なく動かせる範囲 |
| 生活動作を練習する | 椅子からの立ち座り | 椅子の高さ、支え、痛み、ふらつき、見守り |
| 全身を動かす機会を保つ | 歩行、水中歩行など | 症状、体力、ほかの病気、利用できる環境 |
筋力を使う運動でも、関節が動くものと、ほぼ動かさずに力を入れるものがあります。「筋力運動は膝を動かさない」と、まとめて説明しないようにしましょう。
素材① タオルを使ったクアドセット
クアドセットは、太もも前の筋肉に力を入れる運動です。膝の下に置いたタオルを押すように、力の入れ方を伝えられます。実際に試し、痛みや力の入り方を確認したうえで採用する候補です。
筋力への働きかけを考えるときの候補です。適応や負荷は個別に確認してください。
素材② 椅子に座って膝を伸ばす運動
椅子に座り、片方の膝を伸ばして戻す運動です。床での運動が難しい場合にも、座って実施できるかを検討できます。座位であっても、痛みや動きの様子、椅子の安定性の確認は必要です。
動かす範囲や負荷は、その人が実施したときの反応に合わせて調整します。
素材③ ヒールスライド
ヒールスライドは、かかとを滑らせながら膝を曲げ伸ばしする運動です。曲げ伸ばしを練習する必要がある場合に、候補として考えます。大きく曲げることを優先せず、痛みや動く範囲を見ながら調整してください。
膝の曲げ伸ばしを練習する例です。寝起きや実施場所も含めて確認しましょう。
寝た姿勢、座位、立位を、全員共通の段階として進める必要はありません。目標と状態、自宅の環境に合う方法を選ぶことが基本です。
3. 配布プリントには、動きと実施条件をセットで書く
ここからは、専門職が評価・試行を終えてから使う説明文の提案例です。実際の患者さんの症例や、全員に配る完成メニューではありません。回数や負荷は本人に合わせて決め、記入を終えてから渡してください。
椅子に座って膝を伸ばす運動の説明例
患者さんへ渡す説明文の例
この例では、目的と動きの説明を先に置き、個別の条件を下にまとめました。イラストは動きの説明の近くに配置すると、文章と照合しやすい形になります。「何のための運動か」と「家でどう行うか」を、一枚で確認できる構成です。
説明文で避けたい三つの決めつけ
| 避けたい説明 | 記載するときの考え方 |
|---|---|
| 「膝が痛い人は、まずこの運動です」 | 評価して候補を選んだ理由を書く |
| 「全員、同じ回数・秒数で行ってください」 | 試行後に決めた本人用の回数・負荷を書く |
| 「この運動をすれば階段が楽になります」 | 目指す動作を示し、変化は次回確認する |
素材に書かれている目安は、そのまま個別の処方になるわけではありません。どの図を使う場合も、本人に合わせて説明を添える必要があります。
4. 実施した回数と、生活での変化を一緒に振り返る
NICEは、運動を始めた頃に痛みや不快感が増す場合があると説明しています。[2]そのため、「少しでも痛ければ全て中止」と「痛くても我慢する」の二択にはしません。本人に合う運動量と、相談が必要な変化を事前に共有しておきましょう。
以下は、次回の相談に使う記入欄の例です。全部を毎回記入してもらう必要はなく、本人が答えやすい項目を選びます。
| 確認する場面 | 記入・聞き取りの例 |
|---|---|
| 運動中 | 痛み、ふらつき、やり方で迷ったこと |
| 運動のあと | 普段より痛みや腫れが増えたか、どのくらい続いたか |
| 翌日 | いつもと比べた痛み、腫れ、歩きやすさ |
| 目標にした生活動作 | 食卓から立つ際の痛みや、支えの使い方の変化 |
| 続けやすさ | 場所、時間、疲れ、家族の手助けで困ったこと |
強い痛みや腫れが増す場合は、無理に続けず担当者へ相談してください。第1節のような強い症状がある場合は、次回のリハビリを待たず医療機関へ相談する必要があります。[3]
運動を実施できたかだけでなく、当初の困りごとがどう変わったかも確かめます。変化が乏しい場合には、種目を増やす前に、目標・負荷・方法・環境を見直すことが大切です。
おわりに
変形性膝関節症の自主トレは、状態を確認し、目的に合う候補を選ぶところから始まります。プリントには実施条件と相談先を添え、次回は症状と生活動作の両方を振り返りましょう。
イラストは、選んだ運動を本人と共有するための道具です。「何をするか」に加えて「なぜ選んだか」が伝わる資料を目指したいところです。
参考資料
- 1日本整形外科学会「変形性ひざ関節症の運動療法」:筋力・膝の動き・全身運動と個別相談の説明。
- 2NICE NG226:運動療法の推奨事項 1.3.1〜1.3.4:個別化した運動、監督下の運動、開始時の痛みと継続の説明。
- 3NHS「Knee pain」:強い症状がある場合の医療相談の目安。
参照確認日:2026年9月17日。
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この記事は、専門職が自主トレ資料を作る際の確認事項を整理したものです。医療行為や個別の運動処方に代わるものではありません。運動の可否・負荷・回数は、主治医の指示と本人の状態に合わせて専門職が判断してください。


